ドアマットが、1センチずれていた。
火曜日の夜9時15分。仕事帰りにコンビニに寄って、白ワインを1本買った。それだけでいつもより10分遅い帰宅だった。玄関の鍵を開けながら、鍵穴の感触がいつもと少し違う気がした。気のせいかもしれない。カバンを床に置こうとして、視線が自然と足元に落ちた。
黒いゴムマットの左端。壁との隙間がいつもより1センチ広い。
たったそれだけのことだ。でも私には分かる。この部屋に引越してきて3ヶ月、毎朝この上を踏んで玄関を出る。シューズラックのキャスターがいつも左端に接触する位置に、このマットはある。その接触の跡が黒いゴムの端についている。それが今、壁から離れすぎている。
元彼と別れたのは1月だった。3年間付き合って、最後の半年は「新しい部屋に行かせてほしい」と繰り返した。断り続けた。引越し通知を送る前にLINEをブロックした。でも職場の同僚から漏れた。私が今住んでいる駅名を、彼は知っている。
この夜から私は、自分の部屋を疑いはじめた。
目次
スマホのカメラに映る「見えない光」
盗撮カメラの多くは、暗所での撮影を可能にするために赤外線LEDを使っている。人間の目には見えないが、スマホのカメラセンサーはこの光をフィルタリングしきれないことがある。特にフロントカメラはリアカメラより赤外線フィルターが弱い傾向があり、暗い部屋でかざすと赤外線光源が白い点や光の筋として映ることがある。
やり方は単純だ。部屋の照明をすべて消す。スマホのカメラアプリを起動し、フロントカメラに切り替える。画面を見ながらコンセント付近、エアコン周辺、棚の上、天井の換気口に向けてゆっくりと動かす。白く光る点が映れば、そこに赤外線を使ったカメラが存在する可能性がある。
私はその夜、1時間かけてやった。リビング、寝室、浴室入口、玄関。画面は全域で真っ暗なままだった。
ただし、このスマホ検出には明確な限界がある。2026年現在流通しているカメラの一部は、赤外線を使わない「ナイトカラー補正技術」を搭載しており、暗所でも可視光だけで撮影できる。スマホで何も映らなかった=安全、ではない。スマホ検出は「あたり」をつけるための一次スクリーニングに過ぎない。次のステップが必要だ。
盗撮カメラが潜む5つの死角と、目視確認の手順
設置場所には統計的な傾向がある。設置する側の目的は「顔」か「行動」の記録だ。入口、着替える場所、寝室の全景を優先的に狙う。
換気口・排気口のカバー内。 最も見落とされる場所だ。浴室・洗面所・キッチンのレンジフード内部は、定期的に掃除する習慣がなければ数年間一度も開けないことがある。カバーは多くの場合、マイナスドライバー1本で外せる。外した後に奥を懐中電灯で照らして確認する。
コンセント型・プラグ型の偽装カメラ。 市販されているスパイカメラの定番形状だ。一見すると電源タップや充電アダプターとまったく区別がつかない。部屋に存在するすべてのプラグを確認し、自分で設置した覚えのないものは即刻外す。賃貸入居時から刺さっていたものも例外ではない。
煙感知器・火災報知器。 天井に取り付けられており、見上げる習慣がないため気づきにくい。市販の煙感知器に見せかけたスパイカメラは通販で2万円以下から手に入る。入居時についていた機器のメーカー名、型番をスマホで検索してみる。
エアコン本体の上部・カーテンレール。 視線が届きにくいエリア。脚立を使って確認する。埃が不自然に少ない部分や、テープの剥がし跡があれば要注意だ。
インテリア・置き物の正面。 植木鉢の土の表面、置き物の正面、本棚の本と本の隙間。自分で置いた記憶のないものは、レンズらしき小さな穴がないか確認する。
浴室の換気口に、それがあった
ドアマットの一件から6日後の月曜日、私は浴室の換気口カバーをマイナスドライバーで外した。
奥の格子に、黒いテープで固定された小型の機器が見えた。USBの充電ケーブルが奥の壁を這わせてあった。機器の正面、格子の隙間に向けて、小さなレンズが覗いていた。
何秒かただ見ていた。震えていた。怒りなのか恐怖なのか、自分でもわからなかった。ただ「やっぱり」という言葉だけが頭の中に浮かんだ。
触れなかった。スマホで写真と動画を撮影した。カバーを元の位置に戻さず、機器にも触れずに。スクリーンショットをクラウドに保存し、翌朝警察に持参した。
警察では「証拠がないと動けない」とは言われなかった。現物があったからだ。その代わり、その日より前の「記録」を求められた。ドアマットがずれていた写真、郵便受けの向きが変わっていた日のメモ、窓の鍵の位置の変化。断片的に記録していたものが、連続した不審行為の証拠として受理された。
気になった瞬間にスマホで撮っておいてよかった、と心から思った。
「記録される側」から「記録する側」へ
捜査が始まっても、部屋での生活は続く。怖くても帰らなければならない。そのとき私がとった判断は、自分も記録を始めることだった。
最初に玄関正面に置いたのが観葉植物型カメラ CK-016Bだ。棚に置いても完全にインテリアとして馴染み、スマホからWi-Fi経由でリアルタイム確認ができる。動体検知付きで、人が映り込んだ瞬間だけ通知が届く。24,800円。外出中に「今、部屋の前に誰かいる」がスマホで分かる安心感は、値段では測れない。
浴室入口のカウンターにはティッシュ箱型カメラ CK-017Bを置いた。ティッシュ箱がそこにあることに、誰も疑問を持たない。Wi-Fi接続・動体検知・1080P録画。不審な人物が室内に侵入した場合、この機器が自動で記録を開始する。19,800円で始められる、最もコスパが高い選択だった。
外出時の携帯用として選んだのがモバイルバッテリー型 CK-MB01だ。実際に充電機能があり、外観はただのモバイルバッテリー。1080P撮影・長時間録画が可能で、カバンの中に入れておけばどこでも記録できる。15,800円。警察への相談や、不審な場所に立ち寄る用事があるときに持参した。証拠が必要になる場所に、カメラを持って行けるのが強い。
玄関の外、廊下に向けて設置したのがGX-105だ。4K解像度・赤外線暗視・180日待機。この180日という数字が決め手だった。電池交換のために脚立を出す手間なく、半年間動き続ける。夜間の廊下も4Kで鮮明に撮れる。89,800円は高く見えるかもしれない。でも「玄関前に誰がいつ立っていたか」の記録が1枚あれば、警察への説明が完全に変わる。証拠の重さを知った今は、この価格が安いとすら思う。
今夜、確認してほしい場所
この記事を読んでいるなら、あなたにも何か「引っかかること」があるはずだ。
部屋の何かが微妙にずれている。人の気配がする。元パートナーが今の住所を知っている可能性がある。理由は説明できないが、漠然とした不安がある。
そのまま眠るか、今夜確認するか。私がドアマットに気づいて動いた日と、気のせいにして眠り続けた場合の自分を想像すると、その差は3ヶ月分の記録だった。
まずスマホのフロントカメラで部屋を暗くして赤外線チェックをする。次に換気口カバーを外して懐中電灯で照らす。コンセントに見覚えのないものが刺さっていないか確認する。何か見つけたら、触らずにスマホで撮影して記録する。
継続的な監視が必要な状況なら、CK-016Bを玄関正面に1台置くことから始めるべきだ。24,800円で外出中もスマホでリアルタイム確認でき、玄関前の記録が自動で積み上がっていく。
本格的に守るならGX-105の4K・180日待機を選ぶ。電池切れの心配なく、夜間も鮮明な記録が残り続ける。89,800円を支払う価値があるかどうかは、記録が必要になった瞬間に分かる。その瞬間が来てからでは遅い。
※撮影は関連法令を遵守の上、ご利用ください。登場人物・団体は全て架空です。


