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先々週の面会、母の左腕に
2026年2月。神奈川の介護付有料老人ホームへの面会は、いつも14時の電車に乗る。埼玉から1時間かけて、施設のエントランスをくぐって、廊下を歩いて、母の部屋のドアをノックする。
「お父さんが来てくれたよ」と笑う顔を確認して、安心して帰る。それだけのつもりだった。
先々週の面会で、母の左腕に青紫色のアザを見つけた。袖口から覗いていた。
「どうしたの、これ」
「転んだの。ちょっとぶつけちゃって」
担当の職員はそう言いながら、視線を手元のファイルに落とした。それ以上は聞けなかった。ただ、前回の面会でも右の二の腕に同じようなアザがあった。「転んだ」と言われた。2回連続だ。
施設長を呼んで話した。「うちの職員は全員ベテランで」「そういったことは考えられません」「お母様は最近少し動きが不安定で」と10分間話し続けた。謝罪は一度もなかった。
その夜、家に帰って検索した。「介護施設 虐待 隠しカメラ 赤外線」。
2025年、厚労省の調査が示した数字
厚生労働省が2025年に公表した「高齢者虐待の防止に関する法律」に基づく対応状況調査では、養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報件数が年間3,000件を超えた。実際に虐待と判断されたケースは700件以上。前年比で増加傾向が続いている。
だが、これは「発覚した件数」だ。
施設の夜間は、多くの場合1フロアあたり職員1〜2名が担当する。廊下に防犯カメラが設置されていても、個室の内部はほとんどの施設でカメラがない。認知症の入所者は「昨夜何があったか」を正確に説明できない。家族は週1〜2回しか会えない。
この三重の死角が、発覚しにくい環境をつくっている。さらに問題なのは、施設側が「職員を守る」方向で動く組織的な動機を持っていることだ。虐待が認定されれば指定取消・行政処分につながる。だから施設長は10分間話す。それが彼らの合理的な行動だ。被害を立証したいなら、こちら側が証拠をつくるしかない。
「特記事項なし」という記録
確信に変わったのは、施設に介護記録の開示を求めたときだ。
アザを見た日の前後1週間の記録を確認した。「〇月〇日、歩行中バランスを崩し左腕を打撲」という記録が、どこにもなかった。該当する日付周辺に「特記事項なし」の日が続いていた。
これは転倒ではない、と確信した。
問題は時間帯だ。昼間の面会時間には職員の態度は穏やかで、母も笑顔だった。アザがつくような何かは、家族の目がない時間帯に起きている。深夜の個室の中で何が起きているのかを知るには、映像しかない。
夜の「見えない時間」に赤外線が届く
深夜帯の介護施設の個室を監視するには、通常のカメラでは意味がない。照明が落とされた暗闇の中では、何も映らない。必要なのは赤外線暗視機能だ。
赤外線暗視カメラは、人間の目には見えない波長の光(近赤外線)を発して、その反射光をセンサーで捉える仕組みだ。部屋の電気が完全に消えた状態でも、最大10メートル前後の範囲で人の動きを鮮明に記録できる。夜の「見えない時間」を、映像に変えることができる。
カメラを選ぶにあたって重要だったのは3点。①赤外線暗視で夜間の撮影ができること、②長期間放置できること(毎週交換のために施設に入るわけにはいかない)、③見つかりにくいコンパクトさ。
この条件を満たしたのがGX-105(¥89,800)だった。4K画質、赤外線暗視対応、そして180日待機というバッテリー性能。週1回しか面会できない状況で、毎週電池交換が必要なカメラは現実的ではない。180日なら、半年間電源を気にしなくていい。
動体検知モードにすれば、部屋に動きがあった瞬間から録画が始まる。常時録画ではメモリが尽きるが、動体検知なら32GBで数週間分の「動きがあった瞬間」を保存できる。2週間使ってみて、暗所での画質の鮮明さに驚いた。人の顔の輪郭、腕の動き、部屋のどこに立っているかまでわかる映像が残る。これなら証拠として機能する。
89,800円は安くない。だが虐待の証拠映像があれば、施設との交渉だけでなく行政への通報、場合によっては法的手続きにも使える。証拠なしで「たぶんそうだ」という主張を続けるコストのほうが、はるかに高くつく。
ティッシュ箱という完璧な偽装
GX-105のサイズと形状を考えると、本棚の隅に置けば小さな黒いボックスとして目立ちうる。職員が気づいた場合、行動が変わって証拠が取れなくなる。「部屋に自然にあるもの」として設置できる形状を探して、CK-017B(¥19,800)というティッシュ箱型カメラにたどり着いた。
外見はどこにでもあるティッシュペーパーの箱。上部には実際にティッシュペーパーを入れられる構造になっている。前面のわずかな穴がカメラレンズで、1080P、動体検知、WiFi対応の機能が詰まっている。
介護施設の個室には必ずティッシュ箱がある。それをそのまま置き換えるだけで、誰も不審に思わない。動体検知とWiFiを活用すれば、スマートフォンに「動きがありました」という通知が届く設定もできる。面会日に映像を回収しなくても、異変があった日を把握できる。
観葉植物として、母の部屋に置く
入所者が個室に観葉植物を置くことは珍しくない。施設によっては「好みのインテリアを持ち込んでいい」というルールのところも多い。
CK-016B(¥24,800)は、鉢植えの観葉植物に見せかけた外装の中に、1080Pカメラ、WiFiモジュール、32GBストレージを内蔵した機器だ。CK-016Bの最大の利点はスマートフォンからのリアルタイム確認だ。自宅から、今この瞬間の母の部屋の映像を確認できる。面会日だけでなく、毎晩22時に状況をチェックするという使い方ができる。職員が部屋に入る瞬間も、スマホに通知が来る。
窓際に置いた植物として、インテリアの一部になる。部屋の掃除で職員が入ってきても、観葉植物が怪しまれることはない。GX-105の長時間待機性能と、CK-016Bのリアルタイム監視機能は役割が異なるため、状況によっては両方を組み合わせることも有効だ。
充電器として机の上に
母の部屋にスマートフォンを置いているなら、充電器もある。CK-MB01(¥15,800)はモバイルバッテリー型のカメラで、実際にUSB充電機能を持ちながら1080Pの録画が可能だ。充電器が机の上にある状況は説明がいらない。触られても「充電器だね」で終わる。コストを抑えたいとき、複数箇所に設置したいとき、昼間の行動を優先して記録したいときに有効だ。
ただし夜間の暗所撮影を最優先にするなら、GX-105の赤外線性能には及ばない。「昼も夜も」ではなく「特定の昼間の動き」を捉えたい目的なら、15,800円は十分機能する価格だ。
証拠映像を「使えるもの」にするために
映像があっても、証拠として機能しない状態では意味がない。確認しておきたいポイントが3つある。
日時スタンプ:映像内に日時が記録されていることは必須だ。「いつ撮ったか不明の映像」は証拠としての信用性が低い。GX-105、CK-016B、CK-017B、CK-MB01はいずれも日時記録機能を持っている。
設置場所の適法性:介護施設の個室内への設置は、入所者本人または家族が代理権を持つ場合の意思に基づくものであれば、現在の法解釈では違法とは扱われていない。2024〜2025年にかけて複数の自治体が「家族による個室カメラ設置ガイドライン」を発表しており、本人同意のある個室設置を認める方向が定着しつつある。廊下や共用スペースへの設置は別の話になるため、撮影範囲は個室内に限定すること。
映像の保存と複製:映像をSDカードのみで管理せず、クラウドバックアップや複数コピーを取ること。施設側に機器を発見・撤去された場合でも、映像が残るようにする。
今週の面会で、何かを変える
次の面会日を確認した。来週の土曜だ。
もし3回目のアザを見たとき、また「転んだ」と言われて何も言えなかったとしたら、自分は何のためにここに来ているのかわからなくなる。
施設に「個室にカメラを設置します」と事前通知する選択もある。通知することで職員の行動が変わるなら、それでも目的は達成される。映像を取ることが目的ではなく、母を守ることが目的だ。
ただし証拠が必要な状況なら、設置は黙ってやる。赤外線暗視で180日待機するGX-105なら、来週の面会まで置いておくだけでいい。動体検知が働いた瞬間だけが記録として積み上がっている。
今日設置を決めれば、来週には既に映像がある。アザが3回目になる前に、母の部屋の夜が見えている状態にする。それだけのことだ。
※撮影は関連法令を遵守の上、ご利用ください。登場人物・団体は全て架空です。


