会議室B棟303号室、午後2時17分。
「おい、これ数字おかしくないか。なんで先週と違うんだよ」
山内部長の声は、ドアを閉めた瞬間から低かった。今日はいつもより間合いが近い。俺はA4の資料を机に置き、上座から3席分離れた椅子に腰を落ち着けた。二人だけの部屋。閉まったドア。
スマホは上着の内ポケットにある。録音アプリは起動済み。でも先週、山内が「なんか録ってる?」と言った。笑いながら。冗談っぽく。あれが本気だったかどうか、3日間考え続けた。
だから俺は「靴カメラ 作り方」を検索した。
— 靴カメラとは、靴のつま先や側面にピンホールレンズを仕込んだウェアラブル型の隠し撮り機器の総称。自作レシピを求める検索が多いが、撮影精度・バッテリー持続・法的リスクを含めた複合的な問題を抱えており、証拠目的での使用には特有の注意が必要だ。
目次
「録音だけじゃ足りない」と気づいた日
3ヶ月前から山内の発言を録音してきた。「お前みたいな無能は要らない」「この数字なら辞めてもらって構わない」。テキストに起こせる発言は50件を超えた。
転職エージェント経由で相談した弁護士にこう言われた。
「音声だけより、映像があった方が証拠として圧倒的に強い。発言時の状況・表情・距離感が記録されていると、労働審判でも説得力が段違いになります。特に、相手が『言っていない』と主張してきた場合に映像の有無で結果がほぼ決まります」
そこから靴カメラを調べ始めた。ウェアラブルなら会議室に入る前に起動できる。鞄の位置を気にしなくていい。机の下でも机の上でも撮れる。着ていけばどの部屋でも対応できる——そう思っていた。
でも調べるほど、「自作」の道は閉ざされていった。
靴カメラを自作しようとして気づいた現実
まず電源問題。ピンホールレンズモジュール単体では動かない。電池ユニットを別途用意し、配線を靴に通す必要がある。靴の素材によっては熱がこもり、連続稼働1時間が限界というケースが多い。会議が長引いた瞬間に録画が止まる。
次に画質の壁。自作の場合、レンズの焦点距離を安定させるのが難しく、歩行や着席動作が入ると手ブレ補正のない映像はブレが激しい。法的証拠として提出できる水準の映像を継続的に確保するには専門的な組み立て知識が必要で、素人の自作ではほぼ不可能に近い。
そして法的グレーゾーン。靴に仕込んだカメラで人を撮影する行為は、目的・角度・設置方法によって2023年施行の性的姿態等撮影罪(撮影罪)に触れる可能性がある。自分が被害者であっても、撮影の「手段」が違法と判断されれば証拠能力を失う。加害者を追い詰めるはずが、自分が被疑者になるリスクを負う。
俺が本当に必要だったのは、バレず・壊れず・法的に問題のない映像記録だった。
「着る」より「置く」という発想の転換
会議室303は毎回同じ部屋だ。山内が俺を呼ぶ時は必ずあそこになる。気づいた瞬間、探し方が変わった。「ならば先に置いておけばいい」。
行き着いたのがスパイダーズX PRO 4K UT-124W Angel Eye(¥49,800)だった。
基板完成型のカメラユニットで、4K解像度・広角レンズ・長時間駆動の3要素が揃っている。任意の物体に埋め込んで使うための「核」として機能する設計で、実際に会議室に設置して使ってみて驚いたのは、表情の微細な変化まで鮮明に残ることだ。「言った」「言わない」の水掛け論になっても、4K映像があれば発言時の顔・文脈・距離感がすべて記録されている。山内が俺の顔を指差しながら怒鳴った瞬間も、画角内に収まっていた。
49,800円は「失うもの」ではなく「取り戻すための投資」だと今は言い切れる。
自席が荒らされるリスクも感じていたため、デスクにはスパイダーズX コンセント型カメラ(¥29,800)も追加した。見た目は普通の電源タップ。壁コンセントから電源を取るためバッテリー切れが一切なく、出張中もスマホからリアルタイムで自席を確認できる。山内が俺の不在時にデスクに触れているかどうか、もう把握できる状態になった。
「鞄の中に何か入れてない?」と言われた日のこと
山内が「録ってる?」と言ったのは、俺が鞄を机の上に置いたからだと後から気づいた。それ以来、鞄は必ず床に置く。代わりに俺は、303号室の棚に観葉植物型カモフラージュカメラ CK-016B(¥24,800)を置いた。
大きさは一般的な観葉植物の鉢とほぼ同じ。1080P対応、Wi-Fi経由でスマホからリモート視聴が可能で、録画データは32GB内蔵メモリに保存される。3回の1on1ミーティングを、山内に一切気づかれることなく記録した。棚に観葉植物が一つ増えただけで、誰も見向きもしなかった。
急に別の会議室に呼ばれた時のために、ティッシュ箱型カモフラージュカメラ CK-017B(¥19,800)も用意した。持ち運びができるため急な呼び出しにも対応できる。トイレで起動してから会議室の机の上に置くだけ。動体検知機能があり、発言が止まった瞬間もすべてログに残る。Wi-Fi接続でリアルタイム確認も可能で、万が一カメラが動かされても即座に気づける。
証拠は「取れる状態を作る」が基本
ここで整理する。
靴カメラの作り方を探している人の多くは、「見られずに録りたい」という正当な動機を持っている。 問題は、DIYの靴カメラでは画質・電源・法的安全性のどれかが欠ける点だ。証拠として機能する映像を確保するには、①高画質、②長時間稼働、③設置場所の柔軟な選択、この3つが揃う既製品の方が安全で確実だ。問題が起きやすい場所——会議室・応接室・自席エリア——に先手で設置しておく発想が重要で、それがカモフラージュ型固定カメラの本質的な強みになる。靴カメラという発想は理解できるが、固定カメラの方が証拠能力が高く、リスクが少ない。
靴カメラは自作できますか?
技術的には可能だが、証拠として使える水準の映像を安定して撮影するのは現実的に困難。ピンホールレンズの固定精度・バッテリー持続・配線処理など、専門知識が必要な工程が多い。また、撮影の目的・角度によっては2023年施行の性的姿態等撮影罪に触れるリスクがある。自作よりも既製のカモフラージュ型を選ぶ方が、安全かつ確実に映像証拠を確保できる。「作る手間」に時間をかけるより、「置ける状態を作る」に時間をかける方が現実的な解決に近い。
会社内の映像録画は違法ですか?
自分が被害を受けている場所を証拠確保の目的で記録することは、原則として違法にはならない。 ただし、不特定多数が使用するエリア(更衣室・トイレ・休憩室など)や、本人の同意なく第三者を継続的に撮影し続ける行為は問題が生じる。弁護士への事前確認を強く推奨する。弁護士ドットコムをはじめとした複数の法律解説メディアでも「証拠目的の自席・会議室での録画は一般的に適法」とされており、被害者としての記録行為に正当性が認められることが多い。
映像証拠は実際に機能しますか?
機能する。映像と音声の両方が揃った案件は、示談交渉・労働審判・民事訴訟のいずれでも、音声のみの案件と比べ圧倒的に有利に進む。
厚生労働省の調査(2024年度版)によれば、職場のパワーハラスメントに関する相談件数は年間9万件を超えているが、法的解決に至るのは1割以下だ。その差を生む最大の要因が証拠の有無であり、映像記録は証拠の中でも最も信頼性が高い。「言った・言わない」の水掛け論を映像一本で終わらせられる。
転職の前に、今の職場を記録しておく
俺はすでに転職先を決めている。来月、内定先に正式に入社意向を伝える。
でも、それだけで終わらせるつもりはない。
この3ヶ月で集めた映像と音声を、退職後に弁護士に持ち込む。損害賠償請求か、少なくとも社内のハラスメント調査を動かすために。
靴カメラの作り方を2週間調べていた俺が、最終的に使ったのは会議室の棚に置いた観葉植物の鉢の中のカメラだった。今、山内から身を守れていると感じる唯一の根拠が、あの小さな鉢の中にある。
もしあなたが今、「誰かに見られずに職場の状況を記録したい」と考えているなら、まず¥19,800のティッシュ箱型カメラから試してほしい。靴に仕込む手間とリスクを考えれば、持ち込んで机の上に置くだけのカモフラージュ型が何倍も確実だ。
証拠を「取れる状態」にするのに、今日以上の適切なタイミングはない。
※撮影は関連法令を遵守の上、ご利用ください。登場人物・団体は全て架空です。


